忙しいから

自営業は仕事の量を自ら増やす事ができる。事業が軌道に乗るとやりたい事は山ほどあるだろう。私自身も忙しくすればするほど収入が増え「もっとたくさん、もっと上へ」と人間の欲望に支配される。

 

収入面での充実感はあるが、同時に自分という資本に依存している感覚を持つようになってきた。

 

何らかの理由で働けなくなると、たちまち事業は成り立たなくなる。それは自分資本に100%頼るリスクだろう。

 

ある時、4歳の娘が「お父さん見て」と上手に描いた絵を伝えてくれた。たまたま仕事が忙しく「忙しいからムリ!」と言ってしまった。

 

その時、果てしなく増え続ける仕事はどうなのだろう?と疑問を感じた。申し訳ない思いと後悔が残り、娘には「忙しいからムリ」と言いながら、忙しくしている本人は自分という矛盾を抱くようになった。

 

年収5000万円の人は年収500万円の人より10倍働いているかというと、そうでは無いだろう。収入が低いほど(労働時間×単価)、収入が高いほど(しくみ×単価)ではないだろうか、社長業は社員が利益を生み出す「しくみ」を持っている。投資家であれば企業の一部を所有し恩恵を受ける。

 

自動車を運転していると、給油ランプが点灯し航続可能距離が表示された。あと◯◯kmでガス欠で止まるということだ。

 

その時、自分の置かれた状況も同じだと感じた。私が◯◯日不在だと仕事が回らなくなる。これをヒントに航続可能距離を少しづつ、少しづつ伸ばしていけばいいのだと感じた。

 

人生の時間軸で娘の絵を見てあげるのは、ほんの一瞬だろう、そんな大切な一瞬を大事にしたい。

 

世界には賢い経営者がたくさんいる。売上高利益率だけを見てもアップル25%、ビザ67%、キーエンス55%、と信じられない数字が並ぶ、私など足元にも及ばない。企業の一部を株主という形で所有し全自動で託す事が「忙しい」から解放される近道ではないかと思っている。もちろん投資家の洞察力は必要だろう。

 

草刈りをしていると思う、草の1日の成長は少しだが、実際に草を刈るとゴミ袋何杯にもなる。これを株式投資で例えると草一本は企業、庭の広さは市場の大きさ、陽の当たるところは成長産業、草刈り後の大量の草はインカム又はキャピタルゲイン

 

草一本に投資するのは個別株投資、庭全体に投資するのはインデックス投資、夏にかけては良く育ち、冬に向けては成長は鈍化する。まるで株式市場そのものが、家の庭に存在するようだ。

 

自分資本で稼いだお金を少しづつ株式投資に回し航続距離を伸ばしていきたい、かといって仕事が好きなので完全に離脱はしない。一番よいのはストレスなく続けて、いつのまにか自分に頼らない収益構造になっているのが好ましい。

 

10年ほど前の私は、予定帳やToDoリストを埋める事に充実感を持っていた。自分頼りになっていることすら気がついていなかった。なんとなく違和感に気づき始めたのは賢島駅で迎えを待つ外国人観光客だ。アロハに短パン小太りの白人男性だった。アマネムのレクサスが迎えに来てボーイと楽しげに会話している。1泊30万円を超えるホテルだがスーツケースの大きさから1週間は滞在するのではないかと思われる。

 

彼はおそらく富豪だろう、彼と私は同じ空間にいるが見えない壁があるように感じた。その時から彼と私の違いは何なのだろう?と感じていた。

 

日本では忙しくしているのは一見良い事のように見受けられる。だが一定の余白を持つことも大事だろう、フレンチの大きな皿に少しの料理は余白がもたらす演出で美味しく感じる。アリの巣には20%の働かないアリがいる。巣の緊急事や他のアリのフォローなどで余白を残す事が生存率を高める研究結果もある。

 

人間も余白を持つ事で人生を楽しく過ごせると思う。